マジカル文庫/外国につながる家族へのお勧め書籍
■いわゆるハーフの青年3Kさん、お勧めの書籍です。
マジカル文庫について、自分なりに思い当たるものの
中から推薦させて頂きます。今回のは全て文庫化されて
いる小説で、興味があれば容易に手に入ります。
以下に紹介したものを完全に読破したわけではありませんが、
分かる範囲で簡単に内容についても触れてみました。
歴史に関するものが多く、文化的に現代よりも厳しい時代の
社会環境で、逞しく自己を貫いた先人の生き様は、少なからず
励みになると信じています。
中高生向けかどうかは疑問に感じるかもしれませんが、
年齢や読解力云々より、読めるもの読みたいものから
読んでみればよいかと思います。
こういった書物を、さりげなく本棚かなんかに置いておくと、
時が来ればなんとなしに手に取るようになるんではないでしょうか。
尚、思想的に同意できるかできないかより、自分なりに考える
契機としてこういったものに触れることは重要だと考えています。
吉村昭『ふぉん・しぃふぉるとの娘』(新潮):
幕末、シーボルトと長崎の遊女との間に生まれたお稲さんの話。
幾多の困難を超えて、日本最初の「看護婦」となる。吉村昭は
元史料を徹底的に渉猟して書く作家なので、歴史小説の中でも
信頼性は非常に高いです。
白石一郎『鷹ノ羽の城』(講談):
熊本の武将と「南蛮女」との間に生まれ、鬼と称された混血侍
の奇譚。
箒木蓬生『ヒトラーの防具』(講談):
第二次世界大戦下、日本の通訳使節としてドイツに渡った
日独ハーフ青年の、ユダヤ人女性とのロマンスやヒトラーとの
謁見など、ある程度実話に基いたドラマ。
吉村昭『海の祭礼』(文春):
19世紀半ば、北米西海岸の先住民の女性とオレゴンのイギリス人
との間に生まれた実在の「ハーフ」ラナルド・マクドナルドの
日本回想録。西洋文明との内面的確執からか東洋の島国に憬れ、
捕鯨船に乗って漂流者を装って日本に単身上陸する。長崎に護送
されて軟禁されることになるが、当地で蘭語大通詞(通訳)森山
栄之助との日英語学交流を通じて、日本の幕末の命運に大きく
作用する。これに関連して、日本最初の全うな英和辞典の立役者、
堀達之助を取り上げた同作家の『黒船』(中公)も興味深いです。
有吉佐和子『非色』(角川):
黒人在日米軍人と日本人「戦争花嫁」の結婚や出産、ニューヨーク
移住後も続く一家/母娘の生活辛苦を描いた古典的名作。
箒木蓬生『三たびの海峡』(新潮):
戦前九州の炭坑で働かされることになったコリアン青年の抵抗と、
日本人少女との恋愛劇。「朝鮮人の日本移住は概して自主的で
あった」という一部の主張の誤解・欺瞞についても、重大な示唆を
与えていると思われます。
山崎豊子『二つの祖国』(新潮):
太平洋戦争開戦から始まる、カリフォルニアの日系二世を中心と
した壮大なドラマ。戦時捕虜キャンプ(internment)、鹿児島、
広島、東京のGHQ、太平洋諸島、フィリピン、東京裁判と、舞台は
各方面に展開し、日米の間で様々に揺れるアイデンティティの描写は
興味深いです。後半から通訳として活躍する主人公の侍魂や言語に
対するこだわりも、参考になると思います。NHK大河ドラマ『山河
燃ゆ』の原作。同じくドラマ化された同著者の『大地の子』も、
中国残留孤児を主人公とする名著。
北杜夫『輝ける碧き空の下で』(新潮):
ブラジルを中心とした南米移民の顛末を、渡航からジャングル
開墾、逃亡、都市生活、疫病、廃村など、色々なケースを実在の
人物を多数モチーフにしてユーモアを効かせて語る、取材から執筆
まで十余年を費やした労作。神戸港から移民が派遣先に着くまでの
経緯については、石川達三の実体験に基く『蒼氓』(新潮)がよく
知られていますが、スケールの大きさは比較にならない。
高橋克彦『火怨』(講談):
現在の岩手南部を舞台とする、8世紀末の朝廷の侵攻に対する
「蝦夷(エミシ)」の抗戦と、アテルイと坂上田村麻呂の交流を扱う
軍記もの。史料が続日本紀や日本後紀に偏るため場面が戦場中心で、
文化面の時代考証にやや難はあるようですが、「日本人」を考える
上では重要なテーマだと思います。
船戸与一『蝦夷地別件』(新潮):
幕末のアイヌ・モシリ(北海道)を舞台にした、アイヌ民族を取り
巻くの時代の趨勢を綴った圧巻の長編。同様の作品として佐江衆一
『海の夜明け』(新潮)、池澤夏樹『静かな大地』(朝日)などがある。
新田次郎『アラスカ物語』(新潮):
宮城県石巻に生まれイヌイットの世界で生き遂げた、実在の「アラ
スカのモーセ」フランク安田とその妻ネビロの半生。「わたしは
ニホンという島からきたエスキモーだ」と自己紹介する場面が印象
深い。映画化もされている。
井上ひさし『吉里吉里人』(新潮):
国際法の教授が返答に窮した「僕が私有地で日本国から独立宣言を
したらどうなりますか?」という質問に答えてくれた、「国」を
考える上で欠かせない大作。東北の小村が独立宣言をして、政治
経済から文化政策まで八方に手を尽くす。ショートショートで名高い
星新一の『マイ国家』(新潮)に収められている、同名タイトルの小話
も参考になります。
白石一郎『航海者』(文春):
家康の時代に日本に漂着したイングランド生まれの航海士ウィリ
アム・アダムズ、後の三浦按針の伝記小説。日本からの出国が叶わず
相模の地に生き、日本人女性と結婚して男女二児をもうけている。
遠藤周作『侍』(新著):
江戸時代初期に仙台藩の名目的な使節として太平洋と大西洋を渡り、
時のローマ法皇にも謁見した支倉常長一行をモデルとした異色の
歴史小説。東北の伝統的な考え方とキリスト教的な思想の間での
心の葛藤が一つの主題。同著者の『白い人・黄色い人』(新潮)も
こういった命題に関連した短編。
吉村昭『アメリカ彦蔵』(新潮):
上記のラナルド・マクドナルドが日本にやって来た幕末の頃、
太平洋を漂流してアメリカに辿り着いた浜田彦蔵の生涯。
紆余曲折を経て攘夷に息巻く日本に帰国を果たし、米国側の日英
通訳として開国に寄与するものの、日米文化の開きの中での苦悩は
一筋縄ではいかない。井伏鱒二による『ジョン万次郎漂流記』(新潮)
や、18世紀末にロシアに漂着し女帝にも謁見した船頭を題材とする、
吉村昭『大黒屋光太夫』(新潮)、井上靖『おろしや国酔夢譚』(文春)
もある。
三浦綾子『海嶺』(角川):
異国船無二念打払令によって追い払われた英国籍モリソン号
(1837)に乗っていた音吉、久吉、岩吉の漂流譚。尾張(愛知)の
出身の三人は遠州灘で破船、一年以上も海洋を漂って北米西海岸の
先住民部落に拾われる。その後英国人に保護され、ハワイやロンドン
を経てマカオに辿り着き、宣教師の下で聖書の日本語訳にも携わる。
「ゴッドやラブはどう訳すか」というくだりも面白い。彼らのサバイ
バル劇と紳士な態度は現地で耳目を集め、当地(今のワシントン州)に
偶然居合わせたラナルドに日本に対する関心を抱かせるきっかけと
なったとされている。
住井すゑ『橋のない川』(新潮):
部落問題を扱った小説の代表作。島崎藤村の『破戒』(新潮)も有名
ですが、こちらは自尊心をもって差別を乗り越えるというよりも
劣等民としてどう社会と渡り合うかといったニュアンスで、文章的
にもあまり薦められるものではないように感じます。
以上